テックタッチでエンジニアリングマネージャーをやっている堀内です。
メンバーが成長を実感できていないという悩みをもつ EM は多いのではないでしょうか。
「成長」はリーダーがチームやメンバーと向き合っていると必ず遭遇する課題だと思っています。
私自身も課題に遭遇し、これまでメンバーの成長を意識してフィードバックすることを心がけてきました。
しかし、弊社プロダクトメンバーはフルリモート体制ということもあり、個々のメンバーが日々どのような言動を行っているかに気を配りきれないことも多々あります。
目立つ発言や行動についてはフィードバックもやりやすいですが、偏りもあるため注意が必要です。
この状態では、成長のためのフィードバックをすることに限界を感じてしまいます。
そこで、メンバーがお互いの成長を願ってフィードバックしあえれば、チームが加速的に成長すると思うようになりました。
もちろん、メンバー間でフィードバックをしていることはあります。
それだけでなく、全員が意識して行動することがより重要だと考え、チーム内で研修を行うことにしました。
研修を実施してみたところ思った以上に好評で、チーム内でもフィードバックが生まれ始めました。
この研修内容は社内外で役立ててもらいたくて、資料と合わせてフィードバック研修の内容を公開することにしました。
自チームでのフィードバック促進の参考にしてもらえると嬉しいです。
資料公開
以下が研修で利用した資料です。
https://www.slideshare.net/slideshow/feedback-is-a-gift-0e96/273274586
フィードバック研修の参考にした書籍
今回の研修を作成するにあたり、コンカーの社長である三村さんが書かれた書籍「みんなのフィードバック大全」を大いに参考にさせていただきました。
この書籍は「フィードバックなくして成長なし」という一文から始まっており、チームや個人の成長のために書かれたお勧めの 1 冊です。
出典)Amazon.co.jp「みんなのフィードバック大全」
※この記事で「ポジティブフィードバック」、「ネガティブフィードバック」の表現は書籍に従っています。言葉として工学的な意味と違うところも興味深いです。
研修の構成
研修はスライドを用いた座学と、実際にフィードバックを体感するワークショップ形式の 2 部構成で実施しました。
座学で学ぶことで全員の目線がそろい、そのままフィードバックを体感してもらうことで理解を深めてもらうことを意図した構成です。
また、研修の場で一度でも実践しておけば、心理的にも 2 回目以降がやりやすくなることを期待しています。
スライドを用いた座学パート
ここではスライドを用いて説明を行います。
座学パートでは説明に集中してほしいため、スライドの事前配布は行いませんでした。
そうすることで、説明に集中してもらいやすくなりますし、全員が同じペースで学べるメリットがあります。
説明の詳細については後述するので、スライドを利用する際に参考にしてください。
フィードバック実践(ワークショップ)パート
この研修の醍醐味は、ワークショップ形式でフィードバックを体験できるところにあります。
より学びを深めてもらうため、「オブザーバ」という役割を作ってフィードバックのやりとりを客観的にコメントできるように工夫しています。
そのやり方は以下の通りです。
まず 3 人 1 組に分かれ、以下の役割を交代で一巡するやり方を採用しました。
- 伝え手役(フィードバックする人)
- 受け手役(フィードバックを受ける人)
- オブザーバ(フィードバックのやりとりを観察する人)
オブザーバはフィードバックを客観的に観察して、感じたこと、気付いたことを伝える役割としました。
たとえば、受け手が腕組みしていることに気付いて、「身構えているように見えた」と伝えたり、伝え手の抽象的な表現に気付いて「具体的な例があるともっと伝わると思う」といったことを相手に伝える役割です。
フィードバックのやりとりを客観的に見るケースは意外と少ないため、オブザーバとしての立場から学べることもあると思います。
全体の時間配分は以下のようにしました。
- 3 人 1 組に分かれ、役割を決める(2 分)
- 以下を一巡するまで繰り返す(合計で 30〜40 分)
- 伝え手は相手にポジティブフィードバックを行う(3〜4 分)
- 受け手はフィードバックを受けてどのように感じたかの感想を伝える(3〜4 分)
- オブザーバの気付きや感想を伝える(2〜3 分)
- チームの総評をまとめる(気付き、感想など)(5 分)
- 全体で発表する 各チーム(3 分)
フィードバック研修に参加した声
この研修を企画した時、皆んながどのように感じるか不安でしたが、アンケートをとってみるとすごく満足してくれていました。
アンケートでもらった声の一部を紹介します。
- お互いのモチベーション向上になるからフィードバックを実践したいと思います
- 想像以上に効果的であることがワークショップを通じて感じられた
- ポジティブフィードバックは自信につながるなと実感したので、今まで以上に積極的に伝えていきたいと思いました
- 意識しないと頻度が下がっていくばかりなんだなと思えた、意識して増やしていこうと思います!
- フィードバックとは「相手の成長を願って行う対話」である、ということを知ることができてよかったです
このような声を励みに、次回はギャップフィードバックに関する研修を計画中です。
研修の具体的な内容
ここからはスライドの内容を説明します。
スライドを活用する際の参考にしてください。
スライドを見なくても、以下を読むだけでも理解できるように配慮しています。
フィードバックとは何か
そもそもフィードバックとは何でしょうか。
なんとなく「相手に気付いたことを伝えること」と認識している人も多いと思います。
これでは何を伝えるかは気分にも左右されるし、言われた側もモヤモヤが残るかもしれません。
ここではフィードバックとは以下のように定義しています。
相手の成長を願って行う対話
相手の成長を願うからこそフィードバックが意味のあるものになり、相手に受け入れられるものになるのです。
そのため、このマインドこそがすべての基礎であり、出発点となります。
そもそもフィードバックには誤解がある
フィードバックを誤って解釈している人もいますし、気付かないうちに誤った行動をとってしまう人もいます。
以下のようなケースはフィードバックでもなんでもなく、相手を萎縮させることにもつながります。
- 指導という名のもと厳しく叱責する
- 相手を責めたり批判する
- 自己満足のマウント取り
こういったものは自分中心のメッセージになるため、相手の成長にはつながらないと認識しましょう。
それでは以下のようなものはどうでしょうか。
- 上司から部下に対して行う対話
これは一部正解ですが、フィードバックのすべてではありません。
フィードバックは一方通行ではない
フィードバックは上司から部下に対して行うだけのもの、というのは誤りなのです。
上司から部下だけでなく、以下のように全方向に行うものこそがフィードバックなのです。
全方向で行うようになってこそ、チームの成長が促進されるフィードバックと言えるでしょう。
- 上司から部下
- 部下から上司
- 同僚どうし
- 他部門の上司・同僚・後輩
ここで部下から上司に対するフィードバックの必要性を感じなかったり、躊躇してしまったりする人もいると思います。
そんな時、フィードバックは「相手の成長を願う」ことが重要であることを思い出してください。
マネージャーや経営幹部も人間として完璧ではないため、長所もあれば短所もあります。
自分のやり方を見ている部下からのフィードバックはとても貴重な成長の糧となるのです。
フィードバックの種類
フィードバックには大きく分けて 2 つあります。
1 つはギャップフィードバック、もう 1 つはポジティブフィードバックです。
ギャップフィードバックとは、いわゆるネガティブフィードバックと言われるものです。
「ネガティブ」というと否定的なイメージが強くなるので、成長のための差を埋める意味でギャップフィードバックと呼ぶようにしています。
ギャップフィードバックでは、相手の気になる点、課題や改善すべき点を伝えるフィードバックです。
ポジティブフィードバックとは、相手を褒めることです。
本人が気付いていない強みや長所を伝えて成長につなげてもらいます。
ポジティブフィードバックは意識していなければ、案外忘れがちになったり、気恥ずかしさが邪魔することもあるため、意外と難しいものです。
今回のフィードバック研修は、この「ポジティブフィードバック」にフォーカスしています。
フィードバックの受け手のスキル
フィードバックは受け手側にもスキルが必要です。
このスキルを「コーチャビリティ」とも呼ぶそうです。
受け手側にもスキルが必要と聞くと、意外と感じる人も多いのではないでしょうか。
受け手として相手の話を受け止める心構えがないと、伝える側としてもフィードバックする意義を見出すのが難しくなります。
そうするとフィードバックが減る可能性があるので、受け手側にもスキルが求められているのです。
つまりフィードバックとは、伝え手と受け手の共同作業であると言えるのです。
ポジティブフィードバックでもコーチャビリティが必要
フィードバックの受け手の心構えと聞くと、ギャップフィードバックとの関連性を強く感じると思います。
意外かもしれませんが、ポジティブフィードバックにもコーチャビリティが必要となります。
たとえば以下のようなケースを想像してみてください。
伝え手が「○○さんの資料は分かやすいですね!皆さんも参考になるって言ってますよ!」と伝えたとします。
受け手が相手の発言を煽てと捉え、「たまたまです」と反応したらどうでしょうか。
伝え手として本当のことを言っているのに、相手が受け入れてくれないと分かると次から伝えるのをやめてしまうかもしれません。
受け手のコーチャビリティが低いと、フィードバックの機会が減る可能性があるのです。
このように相手のことを疑うのは、相手に対して失礼であることをしっかり理解しましょう。
そして、このように考える人は、自分の思考の癖を理解し、素直に受け入れることが相手に対するリスペクトであると考えるようにしてください。
ポジティブフィードバックの目的と効果
ポジティブフィードバックには大きく分けて2つの目的があります。
「相手の成長のため」と「お互いのより良い関係性のため」です。
相手を褒めることで、相手に自信が生まれ、行動がより良いものに強化されます。
また、ポジティブフィードバックには心理的安全性を高める効果もあり、闊達な発言行動が促されます。
結果的に相互の関係性も強化されるため、将来的にギャップフィードバックをやりやすくなるのです。
フィードバックの具体例
ポジティブフィードバックの具体例を 2 つのシーンに分けて紹介します。
ポジティブフィードバックを行う際の参考にしてください。
シーン①:会議のアジェンダ設計をして開催してくれたとき
- 「今回もアジェンダ作成ありがとうございました。会議の目的とゴールが明確だったので発散せず議論しやすかったです。会議の結論も全員納得しているようでした!」
シーン②:新しい技術導入を行ってくれたことに対して
- 「xxx ライブラリに置き換えてくれたおかげで、これまで 3 日かかっていたとこが、1 日未満で終わるようになりました!」
ここまでがスライドを用いた説明となっています。
スライドと併用して参考にしてもらえたらと思います。
最後に
この研修は非常に良いものに仕上がったと思いますが、私一人で作り上げたものではありませんでした。
資料作成、構成を考えるのにチームメンバーの一人が積極的に協力してくれたのです。
そして資料の内容や構成に対して鋭い指摘をくれただけでなく、なぜこの研修をやりたいと思ったのか、もっと私の熱量を伝えるようにしてほしいと言ってくれたことはすごく嬉しかったです。
(公開資料では割愛していますが、冒頭で熱量をしっかり説明しています笑)
準備段階でフィードバックをもらうことができ、私自信も改めてフィードバックの重要性を理解できました。
本記事がフィードバックに悩みを持っている方の参考になれば幸いです。